2015年5月25日月曜日

消える振り子式特急




国鉄時代に山岳路線などのカーブの多い線区へ切り札として投入された振り子式特急が減ってきている現状について紹介したいと思います。

振り子式特急とは

長野駅に停車するJR東海383
特急「しなの」に使用される
381系の後継で制御付き自然振り子式の383系

振り子式車両は特殊な構造の台車を利用して、列車がカーブを高速で通過したときに遠心力で車両を傾けて乗り心地を向上するシステムです。ただし、カーブの速度向上は振り子式だけで可能になるものではなく、高速で通過できるように線路を強化したり車体を軽量・低重心にするなど、様々な技術を組み合わせて可能になります。

日本では国鉄時代に開発され自然振り子式の381系が、特急「しなの」採用されスピードアップの成果を上げました。この方式はカーブを曲がると動力なしで勝手に車体が傾くので、安全性が高い利点があります。

しかし、この方式の弱点として、車体の傾く動作とカーブを抜けてから傾きが戻る動作がカーブの通過と上手く合わない欠点がありました。この欠点により乗り心地が悪くなり、乗り物酔いがおきやすくなります。

JR東日本E351系の台車
E351系の台車

そのデメリットを改善したのが制御付き自然振り子式です。この方式はカーブの手前とカーブを抜ける直前に少し力を加えることで、傾きのタイミングを調整することができます。そして最終的な傾きは今までと同じ、カーブにより勝手に車体が傾くようにしています。なので安全への影響は最小限に抑えつつも、乗り心地を向上させることが出来ます。

この方式はJR四国の2000形気道車で採用され、特急「スーパーあずさ」用のJR東日本E351系特急電車など、気道車・電車問わず広く採用されていきました。

広がる空気バネ式

よいこと尽くめに見える振り子式車両ですが、大きな欠点がありました。構造が複雑になることから、車両の製造コストやメンテナンスコストが上がってしまうことです。そのため日本で振り子式を採用しているのは、ある程度コストがかかっても許される特急車両だけです。

千歳線苗穂駅付近を通過するキハ201系
空気バネ式の車体傾斜装置を採用する
JR北海道のキハ201系
そんな中で振り子式に変る方式として、「空気バネ車体傾斜式」というものが登場しました。この方式は、現在の鉄道では標準となった台車の空気バネをカーブに入ったとき膨らませ、車体を傾けるというものです。車体の傾斜角度が振り子式に劣るのでカーブの通過速度は下がりますが、仕組みが簡単で製造・メンテナンスコストの両方を抑えることができるほか、乗り心地も振り子式より良いとされます。

そうした理由からJR四国の8600系を皮切りに、現在振り子式の車両が運用されている区間でも、空気バネ式へ置き換えるケースが増えています。先ほど紹介した特急「スーパーあずさ」用E351系も空気バネ式のE353系に置き換えられる予定です。

希望だったハイブリッド傾斜システム

振り子式の採用が減っていくなか、JR北海道は振り子式と空気バネ式を共存させて更に高速でカーブを曲がれるようにと考えたのがハイブリッド傾斜システムです。振り子式で車体を傾かせつつ、さらに空気バネを膨らませて今までのシステム以上に車体を傾斜させ、カーブの通過スピードを上げようというものでした。

しかし、JR北海道内の度重なる大きなトラブルで新しい技術の開発を行うより、安全性の強化が先だという判断が下され、試験車両のキハ285系が完成したにも関わらず試験は中止となってしまいました。

この開発中止はJR北海道以外にも影響があったと思います。空気バネ式が広がる一方で、振り子式を大きく発展させようとしていたのは、日本の鉄道会社の中ではJR北海道ぐらいのものでした。振り子式を採用してる列車の中には地方ローカル線なども多くあり、空気式が広がる中でも振り子式を必要としています。そんな中での唯一発展させようとしていたJR北海道がやめたことで、振り子式の日本での発展は閉ざされてしまったといっても過言ではないと思います。そして地方ローカル線にとっても、進化の一つの道筋が経たれてしまいました。

車体傾斜を捨てたJR西日本

北陸線福井駅に到着する683系しらさぎ
289系に改造予定の683系

北陸新幹線の開業で北陸地域などで運行していた683系交直流特急電車が余剰となりました。JR西日本は683系を生かすべく直流化や車内の改装を施し、289系直流電車として運行を開始することを決めました。その289系で古くなった381系を置き換える予定です。

289系は381系と比べて強力なモーターを採用してるものの、車体傾斜システムがなくカーブの通過速度は劣ります。そのため所要時間が381系より若干延びてしまいます。

683系は登場して15年も経っておらず廃車にするには早すぎること、381系との置き換えならば所要時間に大きな差が出ない、振り子式は導入コストが高いなどを考慮して今回の決定に至ったのだと思います。経済性やJR西日本の状況を考えると仕方の無い判断だとは思いますが、速度面では後退したことは否定できません。

海を越えた振り子式

停車中のJR九州885系
TEMU1000形のペースとなった
JR九州885系

日本での振り子式の採用が減る中で、台湾の国鉄にあたる交通部台湾鉄路管理局(TRA)は日本製の振り子式車両を採用し続けています。今年の1月にもJR九州の885系の姉妹車両にあたる、日立製TEMU1000形の増備を発表しました。

しかし、台湾でも日本車輛製空気バネ式の特急電車も採用されているので、今後振り子式がどうなっていくかは不透明な部分があります。

あとがき

日本の鉄道高速化を支えてきた一つの技術が節目を迎えようとしています。今後どうなっていくか、鉄道ファンとしては見守っていきたいものです。

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2 件のコメント:

鶴鳥祐 さんのコメント...

JR西日本の動向について。2016年3月26日ダイヤ改正後の特急「くろしお」号の天王寺~新宮間の最速列車の所要時間を調べてみましたが、振り子車(283系・オーシャンアロー型)が3時間47分、非振り子車(287系)が3時間48分と、僅か1分差でしかありませんでした。振り子車で運転される特急がどういう訳か単線区間の対向待ち時間を伸ばしたり、ラッシュ時に阪和線区間を走行する便に割り当てるなど、スピードを活かせないスジの便に充当しているためです。しかし、その裏には「非振り子車の287系で十分」と思わせるために、わざと所要時間の差を縮めて統一しているのでは?と疑っていたりします。振り子車はきのくに線からはいずれ姿を消すのでしょうね。

匿名 さんのコメント...

伯備線・山陰線の「やくも」も、そろそろ置き換え時期が近づいています。

伯備線・山陰線の線形が悪いのと、岡山ー米子・松江・出雲市の高速バスとの競合があるために、非振り子式だと所要時間が伸びるということで、振り子式の新型車両をいれざるをえないのではないかと予想。

所要時間では、米子まではバスと特急でほぼ同じ。
松江・出雲市では特急のほうが早い。
運賃はバスが特急の6割程度と安い。

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