東北新幹線が315km/h走行中に連結が外れるという前代未聞のトラブルが発生しました。こういった場合重大インシデントと呼ばれる事故に繋がりかねない事象とし、国土交通省が調査を行うのが一般的ですが、事故原因が分からないトラブル発生当日に重大インシデントには当たらないと国土交通省がコメントし、波紋を呼んでいます。これが妥当か考えてみたいと思います。
やはり重大インシデントにあたるのでは?
当該車両と同じ形式の 東北新幹線E5系 |
結論から言えば過去の事例や今回と似た原因と思われる例から見るに、それらとの違いから重大インシデントにならない反証もあるものの、やはり当たるのでは?というのが私の考えです。
そもそも重大インシデントとは何が対象になるか?、今回と過去の事例を比較するとどうか?という2点から解説したいと思います。
1点目何が重大インシデントにあたるのか?
まず重大インシデントとはですが、日本では大きな事故に繋がりかねないトラブルを指して使われています。そして、そういったトラブルが鉄道で起きた場合、法令で国土交通省へ報告することが定められています。
更に具体的にどういった内容であれば報告する必要があるかも定められており、公開の件に該当しそうな「車両の走行装置、ブレーキ装置、電気装置、連結装置、運転保安設備等に列車の運転の安全に支障を及ぼす故障、損傷、破壊等が生じた事態」という例も示されています。
今回であれば連結装置のトラブルなので、上記の基準に入ると考えられます。
その報告が該当する場合は、国土交通省管轄の「運輸安全員会」が調査に向かうことになります。そして1年程度の調査を行い公に公表するので、国民が原因を知ることが出来るだけなく全ての鉄道事業者が参考に出来るというメリットがあります。
1点注意しておきたいのは、重大インシデントというのは人為的な原因だけでなく、偶発的や未知の事象も含まれるので、重大インシデントを起こしたから悪いとは言えない点です。誰もが想像できないレアケースや、未知の現象によるものであればそれを最初から防ぎようがないのは当然なだけでなく、責任の所在が誰にあるという話でもありません。だからこそ調査し、未然に事故を防ぐ対策を立てるのが重要なのです。
今回の事例の内容
近年起きた事例と比較する前に、今回の内容を知る必要があります。
2024年9月19日盛岡始発東京行きはやぶさ6号(車両形式:
E5系10両)の後ろに、秋田始発東京行きのこまち6号(車両形式:
E6系7両)が盛岡駅で連結。古川~仙台間を315km/hで走行中に、はやぶさ号とこまち号が分離。列車は安全装置が働きブレーキが働き減速。その時後方のこまち号の車掌が異常に気づき、2両目である12号車から先頭車両11号車へ移動し手動でもブレーキをかけて停車。
停車後に車両の連結器を目視で調べたが、特に異常はなし。緊急点検を他の車両でも行ったが、異常は見つからなかったというのが概要です。
新幹線の連結切離しは日常で歴史もある
現在東北新幹線では、E5系とE3・E6・E8系の4形式が日常的に連結を行っています。この連結運転は1992年の山形新幹線つばさ号運行開始から行われており、30年以上歴史ある運行形式で、今まで大きな事故はありません。
列車分離は本当に古典的で重大事故
列車分離事故というのは、鉄道の運行開始からある事故と言っても過言ではなく、日本で有名な古い事故は小説にもなった塩狩峠の事故です。それだけ古くからあるので、対策も行われて安全装置が発達しているだけでなく、起きてはいけない事故の筆頭ともいえると思います。
連結器は走行中外れるなどあってはならないので、それ相応の構造と強度を持っています。今の電車は様々なシステムでモニタリングをしているため、電気的にも安全装置が組み込まれています。今回はで言えば5km/h以上の速度では、切離しされないようロックする別のシステムもついています。なので、本来それが働きロックされるはずだったので、この点は間違いなく問題です
最後の安全装置という点で日本で走る鉄道であれば、連結している列車全てがブレーキ管と呼ばれるブレーキ制御用の空気の管で繋がれており、それが切断されると自動で非常ブレーキがかかる仕組みが付いています。
今回の事例でもそのシステムはちゃんと働いており、分離された時点でブレーキがかかりました。それに加えて東北新幹線の場合は、分離した車両のブレーキのかかり具合で衝突するのを防ぐため、後ろに連結している車両のほうが強くブレーキがかかるシステムが付いているそうで、今回もちゃんと300mの間隔をあけてそれぞれの列車が停車しました。なので、最後の安全装置という点では、満点の働きをしたと言ってもよさそうです。
原因は電気系統の不具合か?
事故当初から専門家も指摘していますが、連結器の破損などが見られないのを考えると電気系統の不具合により分離したと考えるのが自然です。
また、この後紹介する重大インシデントの事例でもあったのですが、電気的な不具合と人為的ミスが重なって分離するという事例がありました。
近年の事例で参考になりそうなのは2件
運輸安全委員会では、2001年からの鉄道での重大インシデントの内容をHPで公開しています。それによると、2001年から63件の重大インシデントが発生しており、そのうち2件が列車が切り離されるという内容でした。
その2件を見ると、1件目が理由不明の連結器解除による分離で非常停止、2件目が人為ミスと電気系統の不具合に地形の影響が重なったことによる分離です。これらの詳細を見るにどちらも結果安全に停止できているにも関わらず重大インシデントに含まれており、今回も調査対象に入ってよさそうに思えました。
1件目 調査中の大井川鉄道の事例
1件目は現在も調査中の大井川鉄道での事例です。
2023年11月28日に終点の家山駅についた電気機関車E31形と客車普通列車3両編成の列車は、駅構内で機回し作業を実施。機関車の付け替えを完了し、折り返し家山駅を発車しポイント付近を通過。その直後に連結器が外れ機関車と客車が分離、その時ブレーキ管が外れ非常ブレーキが作動し停車。乗客や乗務員に被害は無し。
※機回し作業とは、機関車を客車や貨車の前後反対につける作業
この件が起きた翌日には運輸安全委員会が調査入りし連結器の緊急点検を実施、12/1には車両・現場の調査が行われ連結時の検査・テスト項目の追加、12/8には事故当時の状況を再現する検証を実施も、原因が見当たらず引き続き調査というのが概要です。
観光列車という側面が強かったのもあると思いますが、安全のため事故から12/1までは似たようなシステムで運行されるSL含めて、客車列車の運行を停止しました。
このケースでも自動ブレーキにより安全に停止できています。なので、安全に停止でき、見た目では問題が確認できなくても重大インシデントに当たるというのは、ポイントです。
一方で、新幹線と違いアナログな物理的システム中心で連結すれば物理的操作をしなければ外れにくい古い方式であるにも関わらず、外れたので重大性を大きく見積もられたという点もあるかもしれません。
もう一つ特筆したいのは、大井川鉄道が事故が起きてから調査や新しいことを実施する度に、ホームページで追記しながら公開していた点です。本来当たり前ではあるはずの透明性のある事後報告というのができない企業が多い中、こういった公開を行ったのは評価すべきだと思います。
2件目 似ているかもしれない両毛線での事例
2005年5月31日に始発駅小山駅を発車した107系2両編成を2編成連結した4両編成は、次の駅の思川駅に到着。その時車両下部からエアーの抜ける音がし、車両が後退し始め車掌が非常ブレーキをかけ停車。乗客・乗務員に被害は被害は無し。
思川駅で点検を実施したところ、前2両のドアは開閉できるが後ろ2両のドア開閉ができない・ブザーによる連絡ができないなどを確認、そのため連結器を点検したところ20cm分離していたのを確認。
技術係を呼び再度点検。後ろ2両の解結スイッチは点灯していたが(連結)操作ハンドルは運転位置であり、異常は見つからなかったので、再度連結し岩舟駅へ向けて回送を実施。発車した後の走行中に本来オフのはずの自動解結NFBがオンになっていのに気づいたが、走行中なので万一を考えそのまま走行。
※自動解結NFBは自動解結装置の電源を入れるためのブレーカー
次の栃木駅到着後に、思川駅と同様の分離が発生した。というのが重大インシデントの概要です。
原因は前日の作業ミスと偶発的な電気系統の不具合と地形とみられています。
107系は2両固定編成ですが、2・4・6両と必要に応じて編成を増減するため連結切離しを行います。そのため日常的に連結と切離し作業が実施されていました。
前日も2編成の連結作業を行っていました。本来は自動解結NFBスイッチをオンにし、自動解結装置の操作を行い連結、連結完了後に自動解結NFBをオフにするのが流れです。しかし、自動解結NFBをオフにするのを作業員が忘れていたようでした。
しかし、自動解結NFBは自動解結装置の電源スイッチであるため、自動解結装置の操作を行なわなければ、問題ないはずでした。ですが、自動解結装置を分解したところ、装置自体に故障が無かったものの、設計の問題によりコネクタの通電不良で誤作動が発生した可能性があると分かりました。これにより本来人が操作したときしか作動しては行けないのに、逆に作動してしまったと考えられます。
それに加えて、自動解結装置は5km/h以上であればロックをかけるのですが、思川駅が下り勾配で停車した後に列車がゆっくり動きだしたために、勝手に動き出し分離しました。
つまり、作業員のミスと自動解結NFBの設計ミスと下り勾配という3つの条件が重なって、初めてこのトラブルが起きたことが分かりました。そして、この件では車掌が非常ブレーキをかけましたが、人為的にブレーキをかけなければ相当距離列車が動いたことも指摘されています。
これらの原因から自動解結NFB取り扱い時の確認や注意喚起のシール追加、自動解結装置の改良が実施されました。
この例では当初原因は全く分からなかったものの、調べたことにより人為的なミスや設計の不具合が起こったことが分かりました。
このケースが今回の東北新幹線のケースと違うのは、車掌の機転により列車が停止、列車に搭載された装置だけでは、安全に停車できなかった可能性があるという点だと思います。ただ、安全に停車した大井川鉄道のも調査対象になったのを考えると、そこまで大きなポイントともいえないのでは無いかと思います。そして未知であった電気系統の不具合が原因が一つだったと言う点は、今回のケースのヒントになるかもしれません。
大企業なので調査はするだろうが…
JR東日本は調査は間違いなくすると思います。人間自分に甘くなるように、自社には甘くなってしまうものです。運輸安全委員のような第三者の立ち入り・原因の公表範囲・安全対策の実施などは、全てJRの自主性に委ねられてしまうので、それがどこまで出来るかは心配なところです。
そして一番思うのは、調べて事故を防げることがあっても、調べて事故が起こることはないということです。
更に今回装置が正しく働いたのちに車掌が機転を利かせブレーキをかけたというのが、どういう意味があったかも調べる必要があると思います。JR東日本は自動化を推し進めているので、人間の機転にも意味があったのか無かったも重要な話になると思います。逆にこういうケースでは、機械の非常動作と人間の良かれと思った動作がぶつかり悪い方向に働くこともあります。
重要インシデントにならない以上はJRに委ねられたわけですが、透明性のある公表を行ってくれることを願っています。
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