「北斗星」が廃止され後、新たに注目を集める列車「はまなす」の魅力と今後について紹介したいと思います。
最終更新日: 2016.01.03
|
札幌駅で発車を待つ急行「はまなす」 |
急行「はまなす」とは?
青函連絡船の廃止後に本州と北海道を結ぶ夜行列車として1988年から運行を始めたのが急行「はまなす」です。運転区間は青森~札幌駅間で、どちらの駅からも22時過ぎに出発して早朝に終点へ付くダイヤになっています。
2012年に大阪~新潟を結ぶ夜行急行「きたぐに」が臨時になってからは、定期運行を行うJR最後の急行列車となりました。
2014年以降は「トワイライトエクスプレス」「北斗星」が廃止されていくなか、「カシオペア」とともに運行を続けています。しかし、JRは2016年3月の北海道新幹線に合わせる形での廃止にする方針と報道され、9月16日に正式に廃止が発表されました。
「はまなす」の魅力
今時珍しい客車
|
函館駅で急行「はまなす」から切り離されたED79形 |
今時としては珍しい客車を使用しています。「はまなす」の運行区間には多くの非電化区間があり、電車では全線を走ることが出来ません。そして、青函トンネルは安全の関係で火災の危険があるディーゼル列車なども通ることが出来ません。そのため、青森~函館間はED79形電気機関車・函館~札幌間はDD51形ディーゼル機関車が牽引することになっていて、函館駅で機関車の付け替え作業を見ることが出来ます。
ちなみに「はまなす」も客室の電灯などのサービス電源用にディーゼル発電機を積んでいますが、消火装置を搭載することで青函トンネルの基準をクリアしています。
「北斗星」が廃止となった今では、定期列車で国鉄時代設計の青い客車を使用しているのは「はまなす」だけです。寝台『特急』ではないのでブルートレインとは言えないかもしれませんが、非常に貴重な車両での運行となっています。
はまなすの走行・車窓動画
お財布に優しい
通常料金で乗る以外の方法として企画切符を使うというのがありますが、北海道・東日本パスと「はまなす」の組みあわせは最強です。北海道・東日本パスは7日間JR北海道とJR東日本と一部私鉄の快速・普通列車を乗り降り自由という切符ですが、例外として「はまなす」の座席とカーペットカーには急行券などを追加するだけで乗れるというものがあります。これを利用すれば北海道と関東を1万5千円程度で往復できるのです。
また、大きな額ではありませんが新幹線との乗り継ぎ割引の対象にもなっているので、新幹線特急券と一緒に購入することをお勧めします。
一つ注意としてカーペットカーやB寝台はえきねっとでの予約が出来ません。また、シーズン中のカーペットカーは一ヶ月前10時には即満席になります。一般的な特急列車とは違う部分もあるので、予約日当日より前に駅の窓口で細かく聞いてから指定席確保に望むことをお勧めします。
面白い編成
|
運が良いと回送のため連結されている車両がある |
今時の列車は特急なら座席だけ、寝台列車なら寝台だけというのが多いですが、「はまなす」は寝台車、座席車両、「カーペットカー」を連結しています。普段は7両ですが、夏季の旅行シーズンなどは最大12両の長大編成で運転されることもあります。
寝台車は24系客車を使った開放B寝台のみで、乗車券・急行券の他に寝台料金が必要です。
個室がなく仕切りがカーテンのみなので、ちょっと苦手な方も多いかもしれません。
座席車両は14系客車で一般的な特急車両に使われるような座席の車両と、「ドリームカー」と呼ばれる大きくリクライニングする車両があります。このドリームカーのリクライニング座席は、本当に大きくリクライニングするので快適です。
そして最後の「カーペットカー」は、名前の通りカーペットに布団を敷いた感じの車両です。清掃も行き届いているので、寝心地自体は開放B寝台とさほど変らないと思います。
「ドリームカー」と「カーペットカー」は急行券以外に指定席券が必要ですが、設備を考えるとお得な車両です。ただし、連結されない日もあるのでみどり窓口で確認が必須です。お勧めとしては、お金に余裕があるなら「B寝台」、安く済ませたいけど快適性を確保したいなら「カーペットカー」です。
最後に「ドリームカー」と「自由席」の比較ですが、指定席である「ドリームカー」はほぼ満席であっても、「自由席」のほうはガラガラということもあります。座席としての快適性は「ドリームカー」で間違いないのですが、トータルの快適性では必ずしも上とは言えない時もあります。
また、営業列車に回送列車を連結することもあり、運が良いと函館駅で客車の切り離しも見ることが出来ます。
自動販売機がついている
最近は駅のキオスクの充実で車内販売や自動販売機が消えていますが、長時間走る夜行列車である「はまなす」には健在です。値段も普通の自動販売機と同じで、缶の大きさも250mlなどではない普通のサイズを売っているものポイントが高いです。
そんな「はまなす」の今後
|
車両かだいぶ老朽化しているのが分る |
2016年3月までは運行決定
「北斗星」や「トワイライトエクスプレス」が廃止され、「はまなす」の今後が気になる方も多いと思います。今分かっているのは2016年3月までは運行されるということです。新幹線開業の切り替え工事があるため、「青森発→札幌行き」が青森基準で3月21日、「札幌発→青森行き」が札幌基準で3月20日が最終運行日となります。それまでは大きな減便もなく運行されます。
※ダイヤ:
「北斗星」「はまなす」「カシオペア」新ダイヤ徹底解説
北海道新幹線開通後の青函トンネルは設備を新幹線用に切り替えて、新幹線車両と特別な機関車が牽引する貨物列車しか走れなくなる予定です。そして、実際の開業より前に乗務員の訓練や機械の試験を行う必要があります。
しかし、今走っている青函特急や貨物を運休して訓練や試験を行うことは、本州北海道間の人と物の流れを止めてしまうので出来ません。そこで北海道新幹線では、貨物や特急が運行しなくなる深夜帯を使って試験を行うことにしました。そのため観光要素の強い「北斗星」と「トワイライトエクスプレス」は車両の老朽化という理由と、北海道新幹線の準備のため早くに廃止となりました。
それに対し「はまなす」は観光列車というより本州と北海道を結び、札幌からの最終列車などもかねる都市間輸送の要素が大きく廃止が難しい列車です。そして、ダイヤ的にも青森行きの列車の函館発車時刻を遅らせることで対応出来たので、2016年3月まで運行することが出来ました。
北海道新幹線開業に合わせて廃止へ
『札幌―青森間の夜行急行「はまなす」、函館―新青森間の特急「白鳥」「スーパー白鳥」も廃止する方針だ。』
『』内は北海道新聞2015年9月2日報道の 「「カシオペア」実質廃止 「はまなす」「白鳥」も JR2社調整」 より引用したもので、JR北海道とJR東日本が考えている今後の方針です。
近年公式な廃止より新聞などで先に発表したのち、JR各社が公式な廃止発表を行うことが多いのですが、今回も実質的な廃止発表でした。JR北海道・JR東日本が2015年9月16日に発表した北海道新幹線開業に関するプレスで、正式に廃止の発表がされました。
何故廃止になるのか
今後も青函トンネルを走行するためには、新幹線開業後にJR北海道が新しい電気機関車も用意する必要があります。しかし、青函トンネル付近の電化区間でしか利用できず、高額な電気機関車の導入は資金的にも難しいと思います。また、技術的にはJR貨物保有のEH800形電気機関車で客車を牽引することも可能ですが、最低限の導入になる見込みで、貨物列車以外で使うには数が足りないと思われます。なので、今後は青函トンネルを越えての運行は難しい状況です。
そして「木古内~五稜郭」間が第三セクターに移管されることも問題です。これにより、今までJR北海道が得ることが出来ていた同区間の運賃が無くなってしまいます。この減収は通常運賃で「青森~札幌」間を乗車した場合、JR北海道が受け取る運賃の約1割にあたる840円分で、無視出来ない金額です。
さらに廃止報道で触れられていましたが、JR北海道としては北海道新幹線開業後は乗客が減少すると考えているのも問題のようです。
今後部分的に残ることはあるのか?
2015年12月18日にダイヤ改正の発表がありましたが、代替列車などの発表はありませんでした。「札幌→東室蘭」に関してだけは、「札幌22:00発→室蘭23:46着」すずらん12号が設定されました、実質値上げではありますが、この区間にだけは一応代替と呼べると思います。
次に臨時列車としての運行を考えてみましょう。最初に書いたよう都市間輸送としての重要性や、冬季の移動手段確保などの観点からも重要性の高い列車です。そのため北海道新幹線開業後は車両を気動車に変更し、函館~札幌間の夜行列車にされる可能性が僅かにあります。この函館~札幌間の夜行列車というのは、快速「ミッドナイト」という名前で運転されていた実績もあります。
しかし、乗車率が悪く無さそうな観光列車も合理化で廃止してしまう、JR北海道の消極的な姿勢を見ると難しそうに感じます。また、北海道新幹線により特例区間が廃止されそうなのを見ると、安く移動できるメリットも消える可能性が高そうです。その点で乗車率が大きく下がりそうなことも考えると、可能性が0でないにしても運行は難しそうです。
一応議題には上がった貨物連結案
最後にネタ的な話題です。国交省の運輸審議会の資料に、「津軽海峡間は新幹線以外の選択肢がなくなるので、客車を貨物に連結可能か」という話が出ていました。その回答は、「客車自体が老朽化しているので新造コストの問題がある」「貨物の入換え作業によるタイムロスや編成によってはホームからはみ出る」「貨物列車と旅客列車では始発・終着駅が違うことや、今現在青森・函館駅には貨物が入ることはたいため運用面に課題がある」と回答がされていました。
身も蓋もないことを言えば、JRとしては客車の新造コスト捻出・複雑な運用・旅客を新幹線以外に流したくないという前提があるので、この案は無理な話です。ここは鉄道趣味的な思考実験ということで、どうやったら多少は現実的な案になるか考えてみたいと思います。
運用についてですが、青森・函館発着を辞めてしまえば一気に楽になると思います。青森始発を東青森に、函館発着を五稜郭にしてしまえば一気に楽になります。どちらも貨物取り扱いのある駅なので増解結は楽に出来ますし、はまなす運用に関して言えば夜間発着なので停車時間も多少無理が効きます。札幌行きの場合は「東青森~五稜郭」間はコキの最後尾に客車を連結、五稜郭でコキから分離して機関車を連結すれば、かなり楽になるのではないかと思います。
しかし、解決できない問題として貨物の遅延があります。都合の良い時間に「東青森~五稜郭」間だけを走る列車があれば理想ですが、なかなかそうは行きません。おまけに連結相手の貨物が遅れたら何かと面倒です。特に深夜帯に発着する駅で待つ人々はとても困るでしょう。幻の貨物連結案ですが、趣味的には一度でいいから見てみたいものです。
廃止発表とJR北海道の存在意義
JR北海道としては合理化のため運行を続けるのが難しい列車なのは十分理解できます。しかし、地域に必要とされていながら赤字で運行が苦しいのは、JR北海道の大半の列車にも言えることです。なので、私としては赤字でも需要が残っている列車まで整理を始めたら、JR北海道の存在意義とは何なのかと考えてしまいます。
※関連記事
寝台特急カシオペア 団体臨時で運行継続へ
さよなら急行はまなす 乗り収めの旅
消える急行電車 ありがとう165系・475系 その1
「はまなす」「485系」存続 JR各社春のダイヤ改正発表
寝台特急カシオペアラストランとその後