未来の交通の主役になれない
結論から言うと一定の成功は収めることは出来るかもしれませんが、大成功と言えるようなあちらこちらにハイパーループの路線が造られるのは難しいと思います。その大きな要因は、既存の鉄道の延長にしか過ぎないからです。
そもそもハイパーループとは?
ハイパーループはアメリカの起業家イーロン・マスク氏が進める次世代交通システムのことです。減圧したチューブ内を列車が浮遊しながら高速運行し、人や物を短時間で各地で結ぶことが出来るようにするというものです。
この構想を発表した当初はイーロン・マスク氏は、大都市間からそうでないところまでと世界中どこにでも低コストで人と物を高速で輸送できる交通としていました。
今のところ実現しそうなのはリニア方式
減圧チューブ内を走るというのは最初から決まっていましたが、車両をどうやって動かすかは厳密には決まっていませんでした。
ジェット機のエンジンのようなファンが車両先端についていて、そのジェット推進で進むというイメージ図を覚えていらっしゃる方も多いと思います。現在はリニアモーター方式で開発が進んでいます。ジェット推進方式は、かなり難しかったようです。
ハイパーループ構想はコンペ方式となっており、イーロン・マスク氏が直接作っているわけではありません。現在ハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジー社とハイパーループ・ワン社の二社が中心に開発競争を行っています。
メリットとデメリット
ここでは減圧チューブ式リニアで技術的に一定の目途がつくという前提に、ハイパーループのメリットとデメリットを考えていきます。
メリット
リニアのメリットとして駆動部や接触部が少ないというのがあります。そのことにより消耗する部品が減り、メンテナンスが低減できます。急こう配や急カーブにも対応しやすいのも大きなメリットです。更にハイパーループではインダクトラックという方式のリニアを採用すると可能性があります。この方式は日本や中国にあるようなリニアより、低コストを可能とします。
更に減圧チューブを走ることで、騒音問題の防止や超高速走行を可能とします。新幹線が320km/hにとどまるのは騒音が問題です。チューブ型のトンネルにすることで騒音が大幅に抑えられます。また、高速走行時に問題になるのは空気抵抗で、その点でも有利に働きます。
デメリット
減圧チューブ式リニアというまったく新しい方式のため、既存の鉄道などと接続できないのがまず大きな問題です。二本のレールというシンプルな構造の鉄道と比べても、建設費が高価になるのは容易に分かります。そして一番のデメリットとしては、交通としての基本は鉄道と変わらないということです。
鉄道の延長という大きなデメリット
基本的には鉄道と変わらないという問題は、高速鉄道網が限定的にしか整備されないのと、同じ問題に行き着きます。
飛行機であれば拠点の空港の整備で済みます。しかし、ハイパーループや高速鉄道は高規格な線路を拠点と拠点の間全てに、敷設する必要が生じます。なので一定の輸送密度が無いと、採算性に問題が生じます。
当初のただ土管のようなチューブに浮上する列車を走行させるであれば、かなりの低コストで運行できたかもしれません。しかし、リニア方式になった以上は普通の鉄道以上の建設コストが発生するのは避けられません。なので当初のどこにでも安価に路線を引くのは難しく、すでに高速鉄道が走っているような輸送密度が確保できる場所にしか建設は難しくなります。
ただし、最初に挙げたリニアのメリットから、今ある高速鉄道よりは建設コストの他にメンテナンスコストまで含めると、安くできる可能性はあると思います。
既存鉄道との互換性の問題も
日本の場合は在来線と新幹線では線路の幅が違うので接続できませんが、海外では線路の幅が一緒なのでその問題はありません。最近は技術の進歩で高速鉄道車両が様々な電源方式に対応したり、ディーゼル発電機を搭載することもできるので、スピードは遅くなりますが二本のレールさえあればどこへでも乗り入れることが出来ます。
そのメリットを考えるとどこでもハイパーループにしよう!と思う人は減ると思います。安価な二本のレールを敷設するだけでどこにでも行けるというのは、とても大きな魅力だからです。
また、貨物輸送の高速輸送はまだないので、その点をどこまで伸ばせるかでも変わってくると思います。
また、貨物輸送の高速輸送はまだないので、その点をどこまで伸ばせるかでも変わってくると思います。
既存高速鉄道との折衷案もありか?
以上を考えると当初イーロン・マスク氏がぶち上げたような、どこにでも建設できるようなものは難しいでしょう。技術的にめどがついたとしても、大都市間を中心とした高速鉄道に似た路線網になると思います。
私個人としては既存高速鉄道との折衷案も場面によってはありなのではと思います。高速鉄道がスピードを上げる上での大きな問題は空気抵抗です。高速鉄道の世界最速記録は600km/hを超えていることや、新幹線の試験車両も400km/h台までは出せているので、もし空気抵抗の問題が解決されれば400km/hを超える程度までの速度引き上げは見えてくると思います。
なのでハイパーループの開発過程で減圧チューブを安く作れるようになれば、減圧チューブ内を高速鉄道を走るようなのも良いと思います。そうすれば既存の鉄道との接続問題も解決できるので、今ある鉄道網も生かすことが出来ます。ただし、この方式は高速鉄道とハイパーループよりも建設費が高くなる可能性も高いです。実現しても多くの場所で適用できるようなものではないとも思います。
スペースXにテスラモーターズと、イーロン・マスク氏の会社は夢を見させてくれます。ハイパーループも減圧チューブを走る未来の交通として、大きな夢のあるものだと思います。そのまま大きな夢とならないことを願いたいです。