2022年7月13日水曜日

キハ281系・キハ283系引退へ スーパー特急挑戦と妥協と挫折の歴史




まもなく定期運用を引退する、JR北海道の高速化とその終わりのきっかけを作った振り子式ディーゼル特急車両キハ281系とキハ283系を紹介します。

記事作成日: 2021.09.17/記事更新日: 2022.07.13

千歳線を走る特急「スーパー北斗」キハ281系
キハ281系
千歳線を走る特急「スーパー北斗」

JR後高速化に取り組んだJR北海道

キハ281系とキハ283系の話をする前に外せないのが路線の高速化の話です。

JR各社はJR化後に、それぞれ高速化への取り組みを行っていました。JR北海道も例外ではなく、「函館本線高速化事業・根室本線石勝線高速化事業・宗谷本線高速化事業」などが実施されました。

理想で言えば線路自体での作り直しですが、当然莫大な費用が発生するので無理な話です。そのため高速化事業は、妥協案として路盤の強化やポイント通過速度の向上など既存の路線を最大限利用しての高速化が実施されました。

しかし線路などの地上設備の改良だけでは高速化は十分ではありません。そこで投入されたのがキハ281系とキハ283系です。

函館本線の切り札キハ281系

JR独自で行った函館から札幌へ向かう列車の所要時間を短縮すべく、函館本線高速化事業と合わせて1992年から27両導入されたのがキハ281系です。1994年より特急「スーパー北斗」として運行を開始しました。特急「北斗」より30分以上の大幅な高速化が実現しました。

雪の千歳線を走るキハ281系
キハ281系
雪の千歳線を走る
国鉄時代から函館本線で運行されてたいキハ183系は、エンジンのパワーアップにブレーキの強化で高速化が図られていましたが当然限界もあります。

そこでJR四国の2000系をベースに、雪にも強いようJR北海道用にカスタマイズして開発されたのがキハ281系です。キハ183系と同じ強力なエンジンやブレーキを搭載するだけでなく、車両がカーブを通過する時に傾けるための装置「制御自然振り子装置」を搭載しました。この装置は台車の構造が複雑になるものの、あらかじめ高速走行に耐えられるよう路盤を強化することで、カーブ通過時に列車の車体を傾け乗り心地を損なわず通過することが可能になります。これにより日本初のディーゼル特急130km/h運転と、カーブ通過時の速度を振り子装置が無い通常列車と比べ最大30km/hも引き上げることが可能になりました。

完成系として更なる高みを目指したキハ283系

根室本線石勝線高速化事業に合わせて、1995年から「スーパーとかち」用などに38両が導入されたのがキハ283系です。1997年より「スーパーおおぞら」として運行を開始し、「おおぞら」より40分以上の時間短縮を実現しました。その後「スーパー北斗」や「スーパーとかち」でも利用が開始されました。

札幌駅停車中のキハ283系特急車両
札幌駅停車中のキハ283系

函館本線と同じく、線路と車両の両面からの高速化ということで実施されました。この事業では線路など地上設備を第三セクターの道東高速鉄道開発(現在の北海道高速鉄道開発)が改良しJR北海道へレンタル、車両側をJR北海道が用意することになりました。

基本的な設計はキハ281系と同じですが、走る線区に合わせた改良やカーブ通過時により滑らかに通過できる自己操舵機能を台車に追加しました。最高速度は130km/hと同じものの、カーブ通過時の速度を通常列車より最大40km/hも引き上げることに成功しました。

この車両の設計最高速度は145km/hでまだ速度には余裕がありました。そのため2000年に一部車両に140km/h対応工事、2006年には一部車両に振り子装置に空気バネ車体傾斜装置を組み込んだ実験を行い、更なる高速化や新型車両につながる実験をしていました。

このようにキハ281系とキハ283系はJR北海道の高速化に多大な貢献したのです。

JR北海道の綻びを露わにしたのもスーパー特急

JR化後に高速化を続けてきたJR北海道ですが、2011年にキハ283系のエンジンシャフトが脱落する大事故が起きました。乗客の機転によりけが人が出なかったのは奇跡としか言いようがないものでした。その後も他の鉄道会社ではありえない事故が頻発し、経営体質が問題となります。

事故の原因はJR化後努力はしてきたものの、人口減少や経済成長の低迷で思ったより収益伸びず経営が悪化したこと、国鉄分割時の見通しの甘さなどがあります。結果コスト削減を車両や人材全ての面で行うしかなくなったのですが、そのやり方にも問題があり様々な事故に繋がりました。

経営改善策として特急の速度ダウンなど身の丈に合わない高速運転の見直しや、国鉄時代の車両を中心とした新型車に置き換えてのコスト削減と安全性向上、赤字路線や駅の廃止など多岐にわたることが今も実行されています。

スーパー特急故の高コスト体質

高速運転の見直しは結果としてキハ281系とキハ283系の引退を決定づけました。

高速運転は車両にも線路にも負担をかけるため、両面からコストが上がります。なので最高速度とカーブ通過時の速度を下げるだけでコストカットになります。それに合わせて全ての車体傾斜装置も使用を停止しました。

苗穂にて留置中のキハ261系
キハ261系0番台
苗穂の留置線にて

振り子式は複雑な装置と紹介しましたが、複雑な分整備コストもかかります。それなのに速度を落としてカーブ通過時の高速運転をしないのですから、鉄道会社としてはただのお荷物装置です。おまけに長距離を高速走行していた車両は痛みも通常より激しいものとなります。

経営悪化の中唯一の明るい話題だった海外からの外国人客の流入も完全に停止しました。それらの理由から本来であればメンテナンスをすれば十分使える車両でも、国鉄型のキハ183系と共にキハ261系1000番台で置き換えられることになりました。

キハ261系は宗谷本線高速化事業と合わせて「振り子装置」の代わりに「空気式車体傾斜装置」を採用し、製造とメンテナンスコストを抑えてカーブ通過時に最大25km/hの速度アップを実現した車両です。置き換えは0番台から1000番台1~4次車までは付いていた空気式車体傾斜装置を省き、更にコスト削減した5次車以降のキハ261系1000番台で行われています。それに合わせて空気式車体傾斜装置搭載している既存の車両も、取り外し工事が実施されています。

2022年度より定期運用離脱開始

2022年現在ではキハ281系は特急「北斗」でのみ使用されており、2022年9月いっぱいで、定期運行からは離脱します。元々2019年発表の「JR北海道グループ中期経営計画2023」で、2022年度中の運用離脱が記載されていました。27両の在籍を考えると、2022年度分のキハ261系新製で2022年度中に運用離脱は微妙に思えましたが、定期運用からは予定通りの離脱決定となりました。

外国人客が多い状況が続いていれば何らかの活用法があったかもしれませんが、現在の状況では定期運用離脱後はキハ281系はそのまま廃車になる可能性高いと予想します。

一方キハ283系は特急2021年9月に発表の2022年春のダイヤ改正で「おおぞら」のキハ261系化が決まり、2022年3月で定期運用を離脱しました。このまま一時的な臨時運行で使用されたのちに廃車となるかと思われましたが、新たな活躍の場が与えられることなりました。JR北海道の定期特急で最も古い車両をキハ183系で運行されている「オホーツク」「大雪」で、2023年3月から運行が開始される予定です。キハ283系置き換え分のキハ261系の増備は今のところ予定されていないのですが、今後長期間の運用になるか短期間でのつなぎでの運用となるかは見守っていきたいところです。

北海道内の高速道路・バイパス延伸の対抗や交通による環境負荷問題などを考えると、再び高速化をして鉄道利用を促す必要があります。

対策が必要なのは各方面重々理解はしていても、何も出来ず緩やかな衰退しか見通せないのが現状です。どこも最低限しか支援の余裕はなく、投資にせよ廃止にせよ思い切った決断が出来ない鉄道に限らない社会情勢もあるからです。

鉄道ファンとしてはJR発足時のようにチャレンジ精神あふれるJR北海道の姿を再び見れることを、たとえ願望と言われようと強く望んでいます。

※記事の一部にご指摘があり修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。


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