小田急電鉄は50000形ロマンスカーVSEの2022年3月11日までの定期運行終了と2023年秋の廃車を、2021年12月21日に発表しました。なぜ廃車に至るかの考察と、今後も連接台車特急の運行自体は可能ということを解説していきます。
定期運行終了の後廃車へ
運行を終了する予定の 小田急電鉄50000形VSE |
2022年のダイヤ改正前日にあたる2022年3月11日に、50000形特急電車VSEの全編成にあたる計2編成の定期運行を終了すると発表されました。
理由としては車体の経年劣化や機器更新が難しくなってきていることが、プレスリリースに記載されています。
小田急のプレスリリースにも明記されていますが、イベント列車としての運行は継続されるため、完全な運行終了ではありません。繁忙期など臨時列車ので運行もあるかもしれません。しかし、23年秋には引退予定とあるので、定期運行終了後1年程度で廃車が決定しています。
今のところ新型の特急の発表はありません。2022年のダイヤ改正で特急の運行本数が削減されるため、今のところ車両自体が必要ないと考えられます。新型や既存の車両が追加されるかは、旅客需要がどの程度戻ってくるかによるでしょう。
10000形LSEが長野電鉄に譲渡され、富士急には20000形RSEが譲渡され今も活躍しています。前例としてはロマンスカーの譲渡はあり得るので、VSEの譲渡による新天地での活躍も期待したいところです。
コストとホームドアによる影響が大きいか
早期の廃車になったのはコストとホームドアが大きいと思われます。
一般的な鉄道車両では15~20年で制御装置などが古くなるので、その時期に大幅な車両部品の交換を行います。そうしたタイミングで座席などの内装や塗装などの外装にも手を加え、今後15~20年程度使えるようにします。そして30~40年程度を寿命として廃車にするのが一般的です。
VSEは2004~2005年にかけて2編成製造されました。17年経つのでちょうど更新が必要な時期なので、機器の劣化であればそうした措置を行えばよいだけなので、それ自体は運行終了の大きな理由にはなりません。ただ、機器更新は大きなコストがかかるので、何らかの問題がある場合、それを区切りに廃車にする場合もあります。
小田急は1957年に登場した初代ロマンスカーである3000形SE車以降、伝統的に連接台車の特急列車を多く採用してきました。日本での連接台車の採用は少なく近年では路面電車の採用が中心で、近年で特急電車での採用は小田急のみです。そのため車両部品が特殊であることは事実で、編成数が少ないことや特急車両が高速走行で元々高価な部品を使っているのを考慮すると、VSE専用の非常に高価な部品があることは想像できます。
小田急に限らずホームドアの設置が進められていますが、VSEは連接台車であるため通常の特急電車より1両あたりの長さ短くドア位置も変則的であるため、小田急線のホームドア取付の障壁になっていると指摘されていました。現在のホームドアは様々なタイプのものが開発され、VSEへの対応自体は可能だと思います。しかし、VSEだけのために特殊なホームドアを採用しないので済むのであれば、そちらのほうが良いのは間違いありません。
以上のことを考えるとホームドアとVSEの相性が悪かった上に、車両全体の部品を大幅に交換する時期に差し掛かっていたため、この際廃車という方向になったと想像できます。
※連接台車…連接台車は車輪などが取り付けてある台車が、2つの車両の中間にある構造のもの
連接台車特急は復活は出来るが…
今後もホームドアにより連接台車が運行できないかですが、連接台車でも特急という特殊な運用形態上通常のホームドアへの対応は可能です。
特急車両は通勤電車と違い乗降人数が少ない関係で、ドア数が多少減ったりドア位置が変則的でも問題ありません。なので、単純にほかの20メートル車と合うように、ドアがついている車両を設計すれば良いだけの話です。あとはホームドアの開閉プログラムを、ドアがついている箇所のみ開くようすれば良いのです。
さらにロマンスカーならではの利点もあります。一般的な車両では運転台からの乗り降りを考慮して、編成長にあわせた乗務員用の乗り降り設備もホームドアには必要です。ロマンスカーでは運転台が二階にある特殊構造を採用することも多く、その場合は乗客用出入口から乗務員も乗り降りします。なので乗客用のドア位置だけを合わせさえすれば良いのです。
以上から理屈の上では通常のホームドアへの対応は可能です。ただ、本来停車しない駅などへの緊急停車などの非常時を考えると、20mのボギー車が良いのも事実です。色々な事件も増えている現代では、単純なドア位置以外も考慮に入れる必要はあります。
連接台車の意義と小田急らしさ見出せるか?
初代ロマンスカーSE車では軌道へのダメージを最小減にした上で高速走行が可能なよう、技術的な理由から連接台車が採用されました。車両の軽量化・高性能化が進み線路設備が充実した今の小田急電鉄で、技術的な理由で採用をこだわる理由は少なくなっています。小田急でも50000形の先代である30000形EXE、後継である70000形GSEとボギー台車のロマンスカーは多数運行されています。
※ボギー台車…台車が車両に2個付いたいわゆる普通の台車。日本の鉄道車両は基本的にボギー台車です。
しかし、高速走行時有利な物理的特性や、車両ごとを区切らないで済む連接台車ならではの車内づくりができるメリットが全てなくなった分けではありません。50000形VSEが先代30000形EXEの展望席など観光特急らしさの無さと、連接台車の特性を生かしたより快適で特徴ある車内空間を求めて生まれた車両で、それを証明しています。
特急電車でもロマンスカーは箱根への観光列車で、他の特急以上に非日常感を求められる車両です。そういった非日常感を作るために連接台車を採用した、誰もが認める独創的な車両を今後も運行して欲しいと願っています。