2023年6月11日日曜日

さらば快速SL銀河 - 列車運行・ダイヤ編




 2023年6月11日で運行を終了したSL銀河のダイヤや見どころ、運行の特徴などを紹介します。

たっぷり1日乗れて東北を元気づけた列車

釜石駅に到着する快速SL銀河
釜石駅に到着する快速SL銀河
SL銀河は2014年4月12日より運行を開始した列車です。東日本大震災の復興支援という名目で、春から秋にかけて土休日にほぼ定期運行という形で運行されました。列車種別としては全席指定席の快速列車です。2023年6月11日の臨時運行で、運行を終了しました。

車両は蒸気機関車がC58型239号機と、客車をディーゼルカーに改造したキハ141系700番台を牽引と、非常に面白い列車です。車両についてはここでは魅力を書ききれないぐらいで、以下の別記事で紹介しています。


運行が廃止になる理由としてJR東日本は車両の老朽化を挙げています。老朽化自体は事実としても収益性の厳しさが大きく、復興が一区切りついたという点にもあると私は思います。

快速SL銀河ダイヤ
快速SL銀河ダイヤ
(拡大可能)
運行区間は釜石線全区間にあたる「花巻~釜石」間90kmを、約4時間半で走り抜けます。運賃は片道乗車券が1690円、それに加えて指定席料金が860円かかります。途中の遠野駅には機関車の給水を兼ねて1時間以上停車するので、列車を乗り通しながら観光ができました。更に列車は2日で往復での運行で、初日は下り「花巻→釜石」・翌日は上り「釜石→花巻」となっていて、釜石の観光を組み込むことでより深い列車の旅をすることが出来ました。

それでは盛岡駅を起点に通常運行時の列車の区間や駅ごとのみどころを紹介していきます。

乗る前・降りて楽しい回送区間

SL銀河の楽しいところは、乗る前・降りてからもあることです。

SL銀河は盛岡駅近くのSL車庫にて整備されます。そこから回送されて、花巻駅より営業列車となります。その発車前・発車後から楽しむことが出来るのです。

転車台が楽しいSL検修庫

検修庫より出庫するC58形蒸気機関車
SL検修庫より出庫するC58
盛岡駅西口から南に進むとあるのが盛岡車両センターSL検修庫です。ここでC58型239号機は点検や給水に石炭の補給を行い、運行に備えます。

この検修庫は24時間見学スポットが解放されており、下り列車運行日は朝7時ごろから1時間ほど出発の準備を、上り列車運行日は18頃から30分ほど機関車を車庫に入れる様子を見ることが出来ました。

列車が出る・入る時に方向転換するため、転車台で機関車を回転させます。その姿も見どころたっぷりで、運転手さんが汽笛を鳴らすサービスも行ってくれました。

※転車台…車両を回転させる台のこと。電車と違ってSLは運転台が片方向にしかついていないため、転車台で方向を反対にする必要がある。

機関庫出庫の様子

客車と連結する盛岡駅

機関車とは別に客車は盛岡駅西口から北側に進んだ盛岡車両センターに停車していて、そこで検査や給油を行います。

なのでSLと客車をどこかで連結や切り離す必要があり、それを盛岡駅構内で行います。下りの連結の場合は8:20頃、上りの切り離しの場合は17:30頃駅ホームで実施されています。

客車が機関車を引っ張る珍風景

盛岡駅を発車する回送列車
「盛岡~花巻」間は回送でお客さんは乗せないのですが、その回送姿が非常に独特です。

盛岡から釜石に列車が向かう場合、花巻の線路の配線の関係で列車は花巻駅で、進行方向が前後逆転をします。しかし、花巻駅には機関車の向きを変える転車台はありません。そのためバックで「盛岡~花巻」間を走るのですが、その時後ろについてる客車がSLを引っ張って走る、日本でここだけの姿を見ることができました。

しかもそのスピードが遅いため、盛岡駅で発車を見送っても後から出発する普通列車で追い越して、先に花巻駅に到着することが出来ます。(その逆パターンの花巻駅から盛岡駅でも可能)なので、盛岡での転車台や連結を見てからも列車に乗ることが出来ました。

花巻駅回送から入庫までの様子
最初に回送の映像が見れます。

平野・山 様々な姿を見せる釜石線

釜石線は花巻~釜石間を結ぶローカル線です。足ヶ瀬駅周辺を頂点に、内陸部の平野から峠を抜けて太平洋側の釜石に抜けるローカル線です。そのため区間によって様々な姿を見せます。

川に沿って田畑を走る「花巻~春山」間

花巻を出ると春山駅のあたりまではのどかな景色を走ります。まだのこの辺りは勾配が緩く、SLも軽快に走ることが出来ます。景色も田んぼが多く、猿ヶ石川に沿って線路は走ります。

めがね橋を越えて 「春山~遠野」間

めがね橋を通過するSL銀河
めがね橋を通過するSL銀河
「春山~遠野」間はまだ勾配はきつくないものの、少し山に入ってきます。この区間で特に有名なのは、「宮守~柏木平」間にかかる通称めがね橋です。

めがね橋は宮守駅近くにある橋で、正式名称は宮守川橋梁です。愛称の由来は橋の構造で、コンクリート製のアーチ構造がめがねに似ているため付きました。谷状になっている宮守川付近を越えるために作られ高さも17m以上あるので、下から見ても乗って見ても迫力があります。

見方によっては列車が空を飛ぶように見え、宮沢賢治の銀河鉄道の夜のモデルになったとも言われています。

私も降りてSL銀河の走る姿を見ましたが、本当に空を走るようで美しかったです。

河童の町 遠野

遠野駅でC58形の石炭を均す乗務員
遠野駅で炭水車の石炭を均す様子
SL銀河が上りも下りも長時間停車するのが遠野駅です。この駅ではSLの簡単な点検の他、給水を行います。上りの場合釜石から遠野までで、水を5t以上使ってしまいます。SLは最大17tの水を積めるので終点までに切れてしまうことはありませんが、万全を期すためにもここで補給します。到着後すぐにこの作業は実施され、列車の到着の合間を縫って再度連結されます。

遠野駅でのC58への注油
遠野駅での駆動部への注油
大きな作業は遠野駅のみで行われますが、古い蒸気機関車はデリケートのため、殆どの駅で停車時に車軸の温度を測ったりして、状態を監視する作業は行われています。

また遠野は河童で有名な街です。遠野物語で紹介され、日本中で有名になりました。駅前の交番も河童型だったり、なんか不気味な河童の絵があったり町を挙げて河童を推しています。

遠野駅停車中の快速SL銀河の車内
遠野駅停車中の車内
長時間停車で殆どの乗客が降りている
河童が言われるというカッパ淵までは5kmほどあるので、タクシーを使えばギリギリ戻ってこれるくらいの距離なので、駅前で散策というのが無難なルートです。駅前散策なら1時間以上あるのでお昼を食べたり、ちょっとしたお茶したりと色々楽しめます。

ちなみにカッパ淵は本当に居るのか!?ってくらい浅かったりします。妖怪だから多分大丈夫なんでしょう… そして遠野物語は青空文庫で無料で読めるので一度読むのに超おすすめです。

峠越えの「足ヶ瀬~陸中大橋」間

遠野を越えるといよいよ峠越えです。足ヶ瀬駅を頂点に仙人峠という峠となっており、そこを越えると釜石まで下っていきます。途中いくつも見どころがあります。

足ヶ瀬~陸中大橋間はほとんどがトンネルとなっています。特に上有住~陸中大橋間は勾配がきつい区間です。直線で線路を結ぶと勾配が急過ぎる、オメガ型に線路が敷設されており、オメガループの愛称で呼ばれています。

この区間は勾配を緩和した形であってもなお、蒸気機関車にとっては厳しい急勾配区間となります。花巻行きの上りSL銀河の場合、機関車だけの自走で上りきることは出来るのですが、トンネル内を低速で大量の煙を吐き出しながら上ることになり、機関車の機関士が大変なだけでなく、隙間から車内に煙が入り込むため乗客も大変です。その急勾配を克服するために連結しているのが、客車のキハ141系です。

協調運転中のキハ141系の運転台
協調運転中の運転台
ブレーキレバーは刺さっていない
SL銀河の客車は気動車を改造した車両で、ディーゼルエンジンが搭載されています。そこで客車側にも運転手が乗り込み、上り勾配では蒸気機関士の機関士たちと無線で連携し、必要に応じてエンジンで客車で機関車を押し上げます。ブレーキに関しては機関車側で一括制御しているため、客車の運転手は操作しないのも特徴です。このような別の駆動方式の列車同士が協力して運転するのを、協調運転と言います。このような客車が機関車を押し上げる方式は、SL銀河だけで行われていました。

上りの足ヶ瀬~陸中大橋間が協調運転の主な実施区間ですが、雨であったり秋で枯れ葉で線路が滑りやすい場合は、それ以外の区間でも実施し、定時運行を出来るようにしています。釜石線は太平洋側勾配のほうがきついので、特に上り列車は、釜石を出て上り区間に入ったらすぐ実施する場合もあります。

また、足ヶ瀬駅は峠の頂点にあたるため、駅に到達すれば列車の難所は乗り越えたことになります。そこで乗客の乗り降りのない運転停車を行って、勾配を上った機関車の不具合が無いか確認する作業が実施されます。

鉱山の積み込み設備の残る陸中大橋駅

陸中大橋駅のホッパーの遺構
陸中大橋駅のホッパーの遺構
釜石と言えば明治時代からの製鉄の町ですが、それを支えた鉱山が釜石鉱山です。釜石鉱山は陸中大橋駅は、その鉱山からの鉱石の積み込みを行う駅でした。そのためホッパーと呼ばれる上から鉱石を貨車に落として積み込む設備の遺構が残っています。

SL銀河は列車の行き違いのために上下ともに、少し長めに停車します。なので、停車中にホームからその遺構を見ることが出来ます。

もう一つの起点 釜石駅

陸中大橋駅も過ぎると30分ほどで海辺の町釜石駅です。SL銀河の終着駅です。

釜石駅の転車台で方向転換するC58形
転車台で方向転換するC58
SL銀河は釜石駅に到着すると、機関車は客車と切り離されます。駅の南側の列車到着後歩いて見に行くことが出来る距離にあり、まずそこで機関車が方向転換をします。なので、転車台に乗るのは到着時だけです。

釜石駅で炭水車に石炭を積み込むC58形
炭水車に石炭を積み込むC58形
SL銀河は片道で約2tの石炭を消費します。なので、無補給の場合盛岡までの往復は心もとない状況です。そこで釜石駅で、石炭の補給を行います。石炭の積み込みをホイールローダーによって行い、積み込んだ石炭を機関士さんが炭水車の上に乗って均す貴重な光景を見ることが出来ます。その後簡単な整備を行い翌日へ備えます。

切り離された客車も簡単な整備を行います。簡単な清掃だけでなくディーゼル車のため、給油を行って翌日までホームに留め置かれます。

釜石駅での出発準備の様子

大人数で支えるSL銀河の運行

今時の電車であれば運転手さんと車掌さんの二人か、運転手さんだけの一人で長い通勤電車を運行できます。しかし、SL銀河ではそれと比べ物にならない人数で運行しています。

まず蒸気機関車だけで、最低2人が必要です。蒸気機関車は運転手さんにあたる機関士さんの他に、釜に石炭をくべる機関助士の最低二人が必要です。SL銀河では長時間での運転のため、機関助士が2人いるので機関車だけでも3人乗っています。

そして客車側にも複数名乗っています。まず協調運転をするための、客車の運転士さんが1人に走行中の不備に備える整備関係の乗務員さんが1人乗っています。それに加えてドアの開け閉めや検札をする車掌さんが2人乗っています。

これに加えて観光列車であるため、ラウンジカーでの物販や車内のプラネタリウムを案内したりする販売さんが2人乗っています。

そして場合によっては更に乗り込むことも想定できるため、9名を超える人たちにより運行されており、以下に手間がかかっているか分かります。

夢へ消える銀河鉄道

このように非常に魅力的な運行を行う列車だったのですが、廃止になってしまいます。車両数がたったの4両で、1日に片道運行しか出来ない列車かつ、乗務員も非常に多く乗っているので完全にボランティア列車です。キハ141系の誕生経緯を考えると、客車は限界近いものがあります。

もうちょっと値段が上げてキハ110なんかを改造して運行という方法もあるのでしょうが、あまり高いと乗る人も減り、それでも黒字にするのは難しいのを考えると運行継続は難しいのでしょう。

ローカル線の経営が厳しさを増すのを考えると、不採算列車は切り捨てるしかないのでしょうが、ますます人を呼び込むのが難しくなるのは明白です。モチーフとなった銀河鉄道の夜同様、はかない旅路が決まっていた列車なのかもしれません。

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