2016年3月4日金曜日

東武鉄道の対照的だった2つの急行・地下鉄戦略




東武鉄道で運行している急行は大まかに言って2系統あります。一つ目は「久喜・南栗橋~伊勢崎線(スカイツリーライン)~東京メトロ半蔵門線~東急田園都市線中央林間」間を運行する本線系統の急行、二つ目は「池袋~小川町」間で運行する東上線系統の急行です。そしてどちらの路線も東京メトロへの直通運転を行っています。

この二つ路線は似たような条件を持ちつつも、違った戦略で運行しています。しかし、3月26日のダイヤ改正で状況も変りつつもあります。そんな動きも含め紹介したいと思います。

地下鉄優先の本線急行

伊勢崎線堀木駅を通過する東急5000系
伊勢崎線を走る東急5000系
メトロや東急車も急行運用に入る
皆さん急行と聞いてどんな列車を思い浮かべるでしょうか?私鉄沿線の方なら無料の優等列車、JR沿線の方はイメージが湧ない人も多いかと思います。伊勢崎線を中心とした東武鉄道の急行列車は10年ほど前までは、JRと同じ有料の優等列車でした。イメージとしては特急より速度もサービスワンランク下がるが、普通列車よりワンランク上という感じでした。

そんな本線の急行に転機が訪れたのは2006年のダイヤ改正です。この改正で有料の急行列車はなくなり、無料運行の地下鉄直通列車という今の形に変更されました。このダイヤ改正で本線系統の停車駅や種別も見直され、この急行が日中の無料優等列車の中心となりました。車両も特急用と共用でしたが、通勤列車へと変更されました。

更に大きく変化したのは列車の運行戦略です。急行を無料としただけでなく、本線の旅客の流れを極力半蔵門線へ流すことへ変えた点です。東武伊勢崎線は関東私鉄では珍しく、山手線へ接続する駅が無いのが特徴です。そのため都心へ向かうには、北千住から直通を行っている日比谷線に乗るか、北千住からJR常磐線へ乗り換える必要があります。そんな中で半蔵門線直通という新たな経路が開業しました。

半蔵門線へは北千住より南にある曳舟駅の分岐線から押上駅にいたり直通します。そのため北千住の乗り換えていたお客さんが押上乗換えへ変更してくれれば、旅客収入が伸びるメリットがあります。終点浅草駅の構造や立地の関係上、今後乗り換えターミナルへするのは現実的ではありません。それらを踏まえると地下鉄直通の急行をメインとし、半蔵門線直通の流れを中心とするのは自然なのが分かります。

地下鉄に対抗する東上線急行

東上線朝霞駅を通過する東武50090系
朝霞駅を通過する急行
東武車のみの運用
東上線の急行は私鉄らしい急行です。古くから無料の優等列車で、東上線の優等列車の核として「池袋~小川町」間で運行しています。車両も一般的な通勤電車での運行を一貫しています。

東上線も本線と同様に和光市駅から東京メトロ有楽町線・副都心線へ乗り入れています。しかし、地下鉄へ直通する優等列車は一つもありません。東上線と有楽町線・副都心線は池袋駅まで距離にして12km前後を並行して走っています。つまり一部区間は完全にライバル関係にあります。そのためメトロへお客さんが流れることは、お客さんにとっては利便性の向上でも東武鉄道にとっては不利益になります。以前は遠方からのお客さんは急行に乗ってもらい近距離は準急でカバーし、メトロは各駅停車のみという形で、東武鉄道からの視点ではバランスが保たれていました。

その状況を破壊したのは副都心線の開業です。副都心線の開業で副都心線に「急行・通勤急行」という種別が生まれ、「池袋~和光市」間の所要時間がほぼ同じとなりました。幸い運行本数が少なく初乗り運賃の問題もあるため限定的とは言え、新宿・渋谷方面の旅客が流れることは必須でした。

そこで東武鉄道は東上線の運行系統を大きく整理することにしました。急行を優等列車の中心とすることは変えず日中は準急を減らし快速列車を新設し長距離列車の池袋への旅客誘導を強化、ラッシュ時は有料のTJライナーでサービス向上と新たな収益源を確保する戦略をとりました。この戦略は一定の成果をあげました。運行当初は数本の運行だったTJライナーですが、今度のダイヤ改正から夕ラッシュ時は30分ヘッド・朝ラッシュでも運行開始と大成功です。

対して日中の運行戦略は大きな見直しを行うことなりました。それは地下鉄直通急行の新設です。今まで急行中心に池袋駅へ旅客を流す方針から、地下鉄へ直通し減収してでも利便性の向上を図るという大きな方針転換です。元々東上線は和光市駅で対面で東京メトロへ乗り入れることが出来るので、時間や利便性に大きな変化がありません。しかし、直通をすることで実際以上の便利さや時短を演出できると思います。人口減少社会となり、効率的な輸送や鉄道外にとっての利益を中心とするよりも、純粋に利便性を向上したほが長期的には特になるという判断なのだと思います。鉄道会社も変らないといけない時なのかもしれません。

敗北を認めた先にある野田線急行

東武鉄道が考え方を変えた事例として、野田線急行運転開始もあります。こちらも3月26日のダイヤ改正からの実施で、新たな取り組みとなります。

この急行のコンセプトは大宮方面への利便性向上です。つまりJR方面へのお客さんの利便性向上が中心です。これは純粋にお客さんの利便性を向上させるというのもありますが、野田線の価値を向上させる目的もあります。東武鉄道は野田線清水公園駅近くで、新興住宅街を開発しています。急行の運行は、その住宅街の利便性向上という目的も兼ねています。大宮まで現在で38分ですが、急行運転が始まれば31分となります。時短にして7分でも、ほぼ30分で着けるようになるというのは実際の時短以上にインパクトがあるのではないでしょうか?

多摩ニュータウンの例を見ても分かると思いますが、核家族化などで人口増加が永続的に続かないのが見えてきます。てこ入れをしてない新興住宅では高齢化が直接進み、街の新陳代謝が行われません。東武鉄道に限らず私鉄は沿線の開発をセットで行うことで収益を上げてきましたが、高齢化の進む新興住宅街も多くあると思います。そういった流れに歯止めをかけるためにも短期的利益より長期的な利益を見据えて、路線の価値を高めていく時代に入ったのではないでしょうか。

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